「思っていたより時間がかかったな、とりあえず、そこの椅子に座れ」

 イヴェリンはアイラを椅子に座らせた。アイラをここまで連れてきたフェランとライナスは入ってすぐのところに控えていた。

「フェラン、ライナス」

 アイラの正面にいた背の高い男が二人の名を呼ぶ。

「二人は扉の警護。魔術の気配にも気を配ってちょうだい。いいわね?」

 アイラの目が丸くなった。目の前にいるのは、どう見ても男。それも筋骨隆々の大男。顔の半分は髭に覆われているというのに、言葉遣いは女性のもの。

 これは、どういうことなんだろうか――ぽかんと開きかけた口を慌てて閉じる。フェランとライナスの二人は静かに扉の外に滑り出ていた。

「気にするな。夫は四人姉妹の後に生まれた跡取りなんだ。だから、多少女性的なところはあるが、中身までなよなよしているわけじゃない」

 こちらは必要以上にきりりとしたイヴェリンが、もう一つの椅子を引いて座った。

「はあ……」

 アイラの知っているウォリン・ゴンゾルフという男は、戦場の英雄のはずなのだが――アイラと向かい合うようにして座っている机の上には、クッキーとチョコレートが山のように置かれている。