暑いと、眠くなる。


昔からそうだった。


箱の中で、黄色いチェックのカーテンをじっと見ている。


額から流れた汗が目に入り何度も瞬きをする。


暑くて、お腹が減って、ぐらぐらする視界。


近くなったり、遠くなったりと不安定な天井。


こわい。


こわいよ。


そうだ、寝ちゃおう。


寝て、忘れちゃおう。


覚えていないはずの、昔の記憶が


あたしの脳の中で作り出されていく。


眠いと同時に怖くて、


差していたレースの日傘の柄を強く握り直すと、


あたしは腕に付いた傷跡を一本一本数えていく。


その一本のかさぶたをはがすと、じわりと血が滲んだ。


ああ、大丈夫だ。


あたし、まだ生きてる。


そう感じると、耳に町の音が帰ってきた。


あたしは、遠町 雫。


今、この間知り合った男の子を駅で待っているところ。


知り合った?


ううん。


違う。


無理やり知り合いにならせたのかもしれない。


だってずっと探してたんだもの。



予定よりちょっと早かった。


カルテを盗み見して名前を知って、これからだんだん仲良くなるはずだった。



だって、彼にはしてもらわなくちゃいけないことがあるんだもの。


無理やり引き込んでごめんね。


いままで、男の人っていやな匂いがして、怖くて大嫌いだったけれど、彼は違った。


甘い、いい香りがしたの。


あたしと同じ。


自分を傷付けないと生きられない男の子。


あなたをずっと探してたんだもの。