風凛の甲高い音が、


夢の中で響いて、目を覚ます。


急にじーわじーわと


うるさい蝉の声が耳を付く。


まるで突然チューナーが合った


ラジオみたいだ。



薄手のサマードレスという、


涼しい格好で寝たのに、


身体中がじっとりと汗ばんでいる。



昼食の後、テレビを見ながら少し横になったら、


眠ってしまっていた。


後片付けも、夕食の用意も、


洗濯物を取り込むのも、お風呂掃除もしていない。


今日は、おばあちゃんが旅行に


行っていていないから、大変なのに。


慌てて、起きあがる。


よかった。


まだ、日は高い。


お父さんが帰ってくるまでには、


全ての家事を終えられそうだ。




ふと、足の親指と人差し指の間に違和感を覚えて、


眠い目でそっちを見ると、


朝顔の蔦が絡まりついていた。


春の頃に添え木をし忘れた朝顔は、


夏になると、すごい勢いで横に伸びた。


まるで植木鉢から太い毛糸が伸びているようだ。


そんな状態でも、六月くらいからたくさんの花を付けた。


もう小さな緑色の桃のような種子が、あちこちに付いている。



花の色は、淡いピンクだった。


小学校の理科の時間に植えた朝顔の種を収穫して、


毎年少しずつ蒔いていたけれど、


今年は種は取らずに枯らしてしまうつもりだ。



あたしは、絡みついた蔦をそっとはずして立ち上がった。


枯らしてしまうものでも、最後だと思うと愛しい。


そして、風鈴を、吊ってあったカーテンレールから外すと、


おばあちゃんの部屋のたんすにしまった。


樟脳の匂いが、ツンと鼻をつく。


おばあちゃんの部屋は、日が入らないせいか、


汗をかいた身体には少し肌寒い。


夏はもう終わるんだなぁ。




そうだよ。


もう秋だよ。


誕生日が来るよ。


一六回目の誕生日だよ。


待ちに待った。


ハッピーバースデイ。


おめでとう。


雫、おめでとう。


じゅうろくさいだよ。


おめでとう。


頭の中で、一斉に小さな声が喋る。


その声を、聞かないように、


身体をぎゅっと強張らせ、自分で肩を抱く。


腕に付いた、無数の切り傷から、


今は目を背けたくて、天井の染みを


ずっと見つめていた。