定例会から四日後。



今日は紫の家、綾音家の親族会議の日。
いや親族会議と言う名の綾音財閥の経営会議。


紫は中等部に進学したのと同時に、
毎月・第三土曜日になると外出許可を申請して
この会議に出席するようになっていた。



初等部の頃までの紫のあどけなさはこの頃から、
少しずつ消えてしまい今に至る。


*

『ねぇ、きみ なんていうなまえ?』

『……あやね ゆかり……』

『きれいななまえだね』

『きみは?』

『ならさき さいし。

 はい、あくしゅ。
 ぼく、おばあちゃんにいわれたんだ。

 おともだちになるときには、
 ちゃんとあくしゅをしなさいって』


*

ふと出逢ったばかりの記憶が蘇る。


紫が居ないとやっぱりこの部屋は広いな。



寮の部屋とは言え、テレビやオーディオもあれば
パソコンもある。


休みの日には何をしても自由なのだが、
紫が隣にいない時間はやはり弄んでしまって仕方がない。


俺の家は今は小さな綾音傘下の工場を経営している。


俺の母は俺をその命と引き換えにして産み幕を引いた。


母となり俺を育ててくれたのは俺の祖母。


祖母は俺を神前悧羅学院に通わせたいのだとずっと口癖のように言っていた。


『彩紫、おまえは神前悧羅学院に必ず通うんだよ。

 そこには……この家を助けてくれた大切な命の恩人がいるからね。
 綾音紫皇【あやね しおう】さまと言ってね、

 まだお若いのに凄く良くしてくれた人が居てね。
 その方の運営している学校なんだよ。

 彩紫、お前の紫と言う字は私たちがその紫皇様から
 頂戴した一字なんだよ。
 
 紫皇様には彩紫と同い年のお子さんが居てね。
 お前が生まれる三ヶ月前に生まれたばかりなんだよ。

 お前たちは仲の良いお友達になれるといいね。
 
 彩紫は その紫皇様のお子さんを助け支えてあげられる
 お友達になるのよ』


出逢ってひとめで紫の目に引き込まれて離せなくなった。

俺は気がついたら、アイツに声をかけてた。

おばあちゃんに言われたとおり、
手まで差し出して。

紫は戸惑いながら、俺の手を握り返した。


『さいしくん……よろしくね』



アイツはしっかりしてるけど、
危なっかしいところも沢山あって目が放せなくて……。