夜、学院での一日が終わった僕は『palais』
八階の自室で髪を洗いシャワーを浴びて今バスローブを纏って出てきたばかり。


シャワーで汗を流し、少し火照った体を窓を開け夜風にあたりながら
冷ましていました。



「紫綺、風邪をひく」


ふいに紫蓮の声が聞こえ僕は紫蓮を見つめる。



紫蓮は何も言わず、浴室から手にしてきたバスタオルで僕の背後に立ち、
優しく髪をタオルドライしていく。


そしてその後、ドライヤーを片手に髪を丁寧に乾かしていく。


紫蓮の手が止まるまで僕はなされるがままに、
ソファーに座って髪が乾く瞬間を待ち続ける。



数分後、紫蓮はドライヤーの電源を落とし、
コンセントを抜くと櫛で僕の髪を梳いて整えタオルとドライヤーを
所定の棚に片付けた。



「紫綺、髪くらい乾かせ」

「邪魔くさいから」

「髪乾かすくらいを邪魔くさがるなって。
 ったく……体調崩したらどうするんだよ」

「大丈夫だよ。紫蓮が乾かしてくれるだろ」

「ったく……バカが何言ってんだ」


紫蓮はそう言いながら、
僕の隣にゆっくりと腰をおろした。


「紫蓮今日、紫と話したよ。

 確信した……紫は……あの子達は、
 必ず僕たちの思いを叶えてくれる。

 僕には手の届かなかった聖域にすら、
 紫たちは手に届く。

 神前に新しい風が吹く。
 僕たちが思い続けていた願いが……」 

「紫綺、あいつらに入れ込むなよ。

 紫綺、紫綺が見た夢は紫綺が現実に掴め。
 その為なら、オレは何だってしてやる」



力強い紫蓮の想いが僕に真っ直ぐに突き刺さってくる。



だけど……だけど紫蓮、僕はその器にはなれなかったんだよ。



今日、紫と話して良くわかったよ。


……ううん……。
もっと前からわかっていた。



そう紫がこの学院に入学したあの日から。



あの日、新入生の宣誓をした紫の力強い眼差しと力強いオーラを。



紫は僕たちが見守る中、
大きく成長しめきめきと頭角を現してきた。


上に立つものとしての全ての才を持ちしモノ。


それが今年の最高総・綾音紫。


高校二年生でありながら、すでに綾音の内部でも彼の影響力は強い。


在学しながらパソコン一つで、家より託されたコンピューター分野の事業を、
飛躍させていく采配力。

誰もが注目を置きながら当の本人は決して驕ることなく
周囲を気にかけながら今を過ごす。



そんな彼、紫だからこそ僕は最後の希望を託したいと願った。




昨年、最高総に就任した僕も何もしなかったわけではない。


最高総に就任して真っ先に思ったことは、
何時からか疑問を感じてしかたなかったこの学院のシステム。



システムの根本的な見直しを行おうと思った。



だが生徒総会でその話題をとりあげてみても、
役員からの良い返事は得られず、理事長会議に最高総として赴いてシステムの見直しを進言しても、
何一つとりあげて貰えなかった。



何も出来ぬまま、時間だけが次から次へと
砂時計が零れるが如く過ぎていった。 




僕は全学院の生徒から神として崇められ学院内にゲストが
来た折はその方を持て成し学院の生徒とは言葉一つ交わすことなく、
その笑みで持って……潤し……道を指し示す。



学院の光となり、ただただ……なされるがまま……
孤独な時間を過ごし続けた。


紫蓮以外とは言葉を交わすこともなかった一年間。



その中で得たものは孤独と心労。