翌日、私が依頼した二校の視察をする為、
彩紫は草薙さんと生徒総会専用リムジンに乗って出掛けた。



私はと言うと……午前中授業に出て今はは昼休み。


久しぶりにテラスに顔を覗かせた。




昨年まではこうして、テラスでクラスメイトと
会話をしながら学年の為に奔走したものだった。


退学者を出さない為にはどうしたら良いか。
単位が得られない者の為にはどうしたら良いか。

同級生たちの悩みは尽きなかった。



そんな声を受け入れて総会の時に学院の経営者に
生徒たちの生の声を届ける。



それらの声を最高総と最高総秘書が判断して理事会に報告。


その後、最高総の采配のもとで解決していく。


私が最高総に報告した生徒たちの悩みも、
そうしたシステムの中で早々に解決したものがかなりある。



そう言った同級生やクラスメイトたちとのパイプを作るための
コミュニケーション空間。


それが私にとっては、テラスだった。


最高総となった今は学院の規則により、
私は生徒たちと会話を直接交わしてはいけない。



だが同じ空間を共有するだけでも見えてくるものは
あるのではないかと……姿を見せた。




「綾音最高総のお出ましです」




テラス内に一歩踏み入れた途端、
テラスで寛いでいた誰かが大きな声で発する。



その途端、テラスで楽しいコミュニケーションを
とりながらランチを楽しんでいた生徒たちは全員、
その場に膝を折り頭を垂れる。



そんなことをさせるために此処に来たわけではない。
……私の浅はかさ……。







私は何も言わず、笑顔を残す余裕すらないままに
無言でテラスを後にした。



気持ちの中はランチの邪魔をしてしまった
懺悔の気持ちでいっぱいで……。



これが今の学院の現状。



思っていた以上に神前の根は深い。



何故誰も、この現実に意を唱えようとしない?



誰もが皆、あたりまえのように最高総を崇拝し、
最高総たるものは神として、
その場に存在し続けなければならない。



こんな理不尽な現実が今も行われているのに
何故誰も気がつかない。




私はやりきれない思いを抱いたまま、
テラスから早々に『palais』の庭園まで走り抜ける。




途中、声をかけられて膝を折り忠誠を示す生徒たちに
微笑み返すことも出来なかった。