「えー! また来たの?!」


綾瀬家の玄関先での第一声が、孝四郎くんのコレ。


「Ha-ha! いいデショ、別に? だって、コウやセイジが幼馴染みってことは、チビコウも幼馴染みみたいなモンだからー。それに暇そうだし」
「ちょっとちょっと! 今の言葉に突っ込みどころが満載なんですけど!」


腕を組んで突っ込んでる孝四郎くんをするりと横切って、チハルはまるで自分の家のように入っていってしまった。

私は玄関に立ったまま、チハルの見えなくなった後ろ姿から、同じくチハルに視線を向けていた孝四郎くんに目を向けた。

孝四郎くんはリビングに顔を向けたまま、私に言う。


「今の……僕の聞き間違いじゃないよね……?」
「え、と……」
「『暇そう』? 『幼馴染みみたいなモン』? ――――『“チビ”コウ』って、僕のこと?!」
「さ、さぁー……そんなこと、言ってた? かな……」
「僕はチビじゃないし、孝四郎っていうんだからなっ」


珍しく私を置いて、孝四郎くんがチハルが入っていったリビングへ追いかけながら叫んでる。

……気にしてるのかな。

そんなことを思いながら、私は靴を脱いでいいのかどうか躊躇してその場に居た。

俯き迷いに迷っていると、頭上から声が降ってくる。


「入るのか、帰るのか、どっちなんだお前は」


その声に瞬時に顔を上げると、腕を組んで私を見下ろす聖二がいた。

びっくりして声を出せずにしばらくいると、聖二は「はー」と溜め息をついて靴を履きだす。

私を置いたまま、聖二がドアを開けて、出ていこうとした。


置いて行かれちゃう……!


無意識に、そう思った私の手は、聖二のシャツの裾を掴んでしまった。

細ストライプの線を、下から上へ追うようにゆっくりと見る。
肩まで辿ると、視界に少し入る聖二の顔がこちらを見ていることが分かる。

シャツを離せない手が気まずくて、それ以上顔を上げられない。