「コウー!」


あれから宣言通り、素早く荷物を片付けたチハルは私を連れて、1014のドアを開けた……勝手に。


「ああ。待ってたよ」
「Ciao!」
「あの…私…」


なんか、場違いじゃないのかな。懐かしい幼馴染みと再会して、話をするのに私なんかいたら。

そう考えて、玄関で迷っていたら、浩一さんににっこり笑って「美佳ちゃんも遠慮せず、どーぞ」と言われてしまった。

やっぱりわかりやすいんだな、私。

浩一さんに促されてリビングに入った。
その時にはもうすでに、チハルはその場に馴染んでいてびっくりした。


「ミカー。ここ、座ったら?」


ポンポンと自分の座るソファを軽く叩いてチハルが言う。

けど、私の意識は違うところにいってた。

ソファ(そこ)は聖二の指定席。
その聖二の姿が見えない。

あからさまに部屋をキョロキョロとは出来なくて、それでも気になる私は自然を装って辺りを確認する。


「チハル。今日の予定は?」
「Va bene.ダイジョーブー」
「じゃ、夕食一緒しよう」
「Evviva!(やったぁ!)」


未だに聞きなれ無い声と、イタリア語を聞き流して聖二の気配を探していると、浩一さんに呼ばれた。


「美佳ちゃん。いい?」
「へっ⁈ あ、と…」


なんだろう⁉ 今、なんの話をしてたんだっけ⁈

会話に集中していなかった私は、どう答えていいかわからずにしどろもどろ。
そんな私を浩一さんが、くすりと笑って答えてくれる。


「ちーちゃんもご飯食べれるみたいだし、美佳ちゃんも食べてって?」
「えっ。あ……ありがとう、ございます…」
「コウー。もう『ちーちゃん』は卒業してー」


私と浩一さんが立ち話をしている中に、いつの間にかうつ伏せに頬杖をついて横たわっているチハルが言った。


「そっか。じゃあ、“チハル”?」
「Si.Si.Si!」


浩一さんが、チハルを呼び直すと、チハルは満足げに答えた。
笑顔の二人をみてると、どことなく似た柔らかい雰囲気が、まるで本当の兄弟のように思わされた。