ケータイ小説 野いちご

策士な保健医~恋の速度はAndante~

♪第2楽章 恋の花が芽吹く初夏
♯ 第4小節 秘密の告白

【先生 Side】



春川がスクール水着から制服に着替える間、俺は保健室横の廊下の壁に背中を預けて待っていた。

「霧島先生、美桜の着替え終わりました。…じゃあ、あたしは授業に戻ります。美桜の事、お願いします。」

「心配は要らない。そんなに落ち込んだ顔をするな、高梨。大丈夫だから…。」

心配そうな顔をする高梨を再び授業に送り出した後【メンタルケア中】の札をドアに掛けてから俺は保健室へ入り、ドアと鍵を閉めた。





―パタン…カチャ…―



「さて、春川…。よく頑張ったな、今からは楽になれ。泣きたければ泣けば良いし、眠りたければベッドに横になれば良い…。話したければ、ゆっくり聴くから……。どうしたい?」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさぁぁぁぁい!霧島先生っ…【発作】のこと言わなくて…言えなくてっ…いろんな気持ちがあってっ!!…ごめんなさぁぁぁぁい!」

ドアの鍵を閉めるや否やもの凄い勢いで俺に飛びつき、そう言って白衣を握りしめ大泣きする春川。

彼女の身体は、震えていた。


“【発作】が起きるかもしれない”という恐怖心からくる【不安】。
“【発作】の事を本当は伝えたいのに、みんなが驚くかもしれないから言えなかった”という歯がゆさからくる【悔しさ】。

…きっと、いろんな感情が春川の中にまだ残ってるんだろう。


それに気づいた俺は、部屋の奥へ進む事もせずドアに自分の背中を預けてその場で春川を抱きしめた。

「…良いんだ。良いんだ、春川…。お前は高梨にちゃんと伝えてた、対処法までちゃんとな……。あれで良いんだ、お前が【心を許せる人間】に伝えてくれた…それだけで十分だ。本当によく頑張ったな、春川…。」

俺は春川を宥めるように優しくそう言い、彼女を抱きしめる腕を強めた。

「…先生っ!」

「…ん?どうした?」

「私を助けに来てくれて、私の【味方】で居てくれて…ありがとう…っ!…っ!…【発作】の事は保健室の先生じゃないと分からないし、泳げないこと言ったら小学校とか中学校の頃みたいにまたバカにされるんじゃないかっ…って思っ…て…言えなかったのっ。」

「あぁ、そうだな…。【発作】の事は“みんなが驚くかもしれない”と思って、言い出せないかもしれないな。それに“泳げない奴”って思われてバカにされるのは確かに嫌だな、悔しかったな…春川。」


“春川…。お前…どうしてもっと早くに言わなかったんだ…。こんなに溜め込んで……。こんなにお前を苦しめたのは…俺だな。俺がもっと【相談しやすい雰囲気】を作っていたなら………ここまでお前を苦しめる事はなっかった…。すまない、春川…。”


「小学校の頃っ……泳げない事が原因で、男子にもの凄くイジメられましたっ…。“プールの中から足を思いっきり引っ張られる”っていう悪ふざけをされて…溺れさせられた事もありましたっ。…死んじゃうっかと思っ…て…すごく怖かったのぉぉぉぉ!」

そこまで一気に言うと、春川は叫び声を上げるように泣きじゃくった。

「“足を思いっきり引っ張られて溺れさせられた”!?そんな事もされたのか!?…そんな事されたら、プールが【嫌い】になって当たり前だ!…あっ、悪い。つい大声に…。身体に響いてないか?」

話の内容を聞き、思わず大声を出してしまった俺。

「…ふぇ!…ふぇっ!…だっ…大丈夫ですっ、先生。でもっ…やっぱりっ、【発作】の後だから立ってるのっ…辛くなってっきたかも…ベッド。」

嗚咽と闘いながらも、しっかり意思表示をする春川を見て胸を撫で下ろす俺が居る。

「分かった。春川、悪いが今はベッドまで横抱き…【お姫様抱っこ】してくぞ?」

俺の言葉に一瞬は戸惑い身体を強張らせたが、恥ずかしそうにしながらも俺に身を委ねてくれた春川。

そして俺は春川を【お姫様抱っこ】でベッドまで連れて行き、そっとベッドに寝かせた。

「しかしなぁ…さっきの話は本当にトラウマになる話だし、確かに【信頼できる人間】にしか話せない内容だ。すまない、春川。無理をさせた…思い出すのも苦しかったろ?」

そう言って、俺は春川の頭を2・3回繰り返し撫でた。

「ううん。正直…“どうして言わなかったんだ”って、怒られるかと思いました。霧島先生に…。でも先生はまず私の話を聞いてくれた、だから…きっと安心して話せたんだと思います。先生、もう少し話聞いてくれますか?」

頭を撫でている間に、春川の頬を伝う涙は徐々に減っていく…。

「あぁ、もちろんだ。どうした?」

「【発作】の事が分かってから…小・中学校の担任の先生や、教科担任の先生は、私をちょっとだけ【厄介者扱い】するようになりました。プールの時期の体育の授業も【見学】じゃなくて最初から“保健室へ行ってなさい。”って言われるようになりました。【仲間外れ】にされた気がして…すごく嫌でした。」

寂しそうな声でそう言った春川を見ていると、これまでこの件でどれほど悩んできたかという事が分かった気がした……。

「…それでだな、藤崎先生の言葉で取り乱してたのは…。」

「はい。…でも、小・中学校とも【保健室の先生】だけは…【私の味方】で居てくれました。」

「そうか…。俺も【お前の味方】で居るからな、いつでも頼ってこい。春川…。」


そう言った俺に、春川から【まさかの言葉】返ってきた。



< 54/ 80 >