ケータイ小説 野いちご

策士な保健医~恋の速度はAndante~

♪第2楽章 恋の花が芽吹く初夏
♯ 第1小節 心の天気は、梅雨模様

【先生 Side】



朝の校門前。

「おはようございます、霧島先生。」

「あぁ、おはよう。」

丁寧に挨拶をしていく女子生徒も居れば…

「おう。霧島、おはよう。」

「コラ、【先生】を付けろって言ってるだろ!(笑)…オマエ、本当に保健の授業で【1】を喰らって来年も高校生で良いようだな~。1つ下の学年と被って。(笑)」

「げげっ!それは勘弁しろって。」

「…だったら、言葉遣いぐらいは直せ。(笑)」

まだ言葉の使い方すら知らない男子生徒も居る。
こんな生徒たちを、俺たち教師は見守るのである。

この学校では、これを【朝の生徒指導】。通称【立ち当番】と呼んでいる。
ちなみに、この【立ち当番】は当番制で回ってくるものだ。

今日は、俺と要と生徒指導の上城 昇(かみじょう のぼる)先生が【立ち当番】で、生徒たちを各教室へ入っていくのを促す。

その人…。 上城先生は、いかにも【生指の先生】という感じの先生だ。

いわゆる【不良】や【ギャル】といった生徒たちを心底嫌う、40代半ばの【オッサン教師】だ。

まぁ。そんな口うるさい先生だけに、生徒の中ではガミガミ言うから【ガミ城】なんて呼んでいる奴も居るらしい。
確かに、この人のようなタイプの【生指の先生】は俺が生徒の立場であっても鬱陶しいと思うし、俺自身も実際に好きなタイプではないから、分からなくはないがな…。(苦笑)

朝から野郎3人で暑苦しいと思いつつ、生徒たちを送り込みながら俺は【アイツ】を待った。


昨日の今日だからな…。

高梨は、【宿題やってなかったのを思い出したから、今からやりたいって言ってました】なんて言っていたが…

あれは、どう考えても誤魔化しだろう。

それに、気になるのは【アイツ】が泣いていた事だ。
一瞬しか見えてないから、確証は無いが…。

泣かした原因は、明らかに俺だと思ってはいるが理由の見当が全くつかない。


また知らず知らずのうちに、俺はお前を傷つけたのか?


……春川。

…なんて考え事をしながらも、上城先生が喧嘩をふっかけてきたから、仕方なく相手をする。

「霧島先生、叱るならきちっと叱って下さい。【ああいう生徒】は叱り方が甘いと付け上がるだけなんですから。」

「上城先生のおっしゃる【叱る】とはどういう意味でしょうか?僕は寧ろ【ああいう生徒】ほど向き合ってきちんと【叱る】必要があると思います。頭ごなしに【怒鳴る】のと【叱る】のとは違います。【叱る】というのは【相手と向き合い愛情をもって怒る事】を言うのだと、わたしは姉から教えられました。」

不服そうな顔をして俺に意見してきた上城先生に、俺は動じる事なく冷静に答えた。

この人はなぜか俺に敵意剥き出しで、何かと嫌味を言ってくる。
だから構わないのが1番良いだろう。

まぁ敵意剥き出しの理由は大方、ある意味での【嫉妬心】だろうがな。
恋愛感情や信頼感、いろんな意味で生徒たちが俺や他の教師の所に集まるからだと思う。

「あっ!【立ち当番】、霧島先生じゃない。…おはようございます、先生。」

声がした方を見れば、高梨がいつも通りクールに口角だけ上げて笑って立っていた。

「あぁ。おはよう、高梨。」

俺も高梨に、サラリと返す。

そして、そんな高梨の後ろには彼女の身体に必死になってしがみついている俺の【待ち人】である春川と、音原と金村が居た。

「「おはようございます、霧島先生。」」

音原と金村も、そう言って俺に笑顔を向ける。

「あぁ、おはよう。音原、金村。」

1人1人に挨拶するのは基本だからな。
今度は、音原と金村にサラリと返す。


そして……



「お、おはようございます…霧島先生。///」

3人に遅れは取ったものの、春川もちゃんと挨拶をしてきた。

だが、俺に対して恥ずかしがっているような気がするのは、気のせいか…?
そのうえ挙動不審気味で、なぜか顔を必死に隠そうとしている。

それから、何よりいつもの【元気で明るい春川】ではない事が心配だった。

何があった? 春川…。

「春川、どうした?具合でも悪いのか?元気があるようには見えないが…。」

「いえ、大丈夫です…先生。///」

嘘つけ…。 …ったく、しょーがないヤツだな。

「藤崎先生、【1-E】の保健委員って高梨と春川でしたよね?」

「そうですが…。」

要は“んん?”という顔をして俺を見つめた。

「昼休み、プリント作成を手伝ってほしいので彼女たち2人をお借りしたいのですが。それから春川の体調も優れないようですし。それについても聞きたいので、昼休みに春川は確実に保健室へ来させて下さい。」

俺がそう言うと、春川は一瞬顔を強張らせたもののすぐに“ホッ~!”と安堵の仕草を見せ胸を撫で下ろし、安心しきった柔らかな笑顔を見せた。


“…ん?俺と話したくない訳ではないようだな。良かったよ。”

春川の笑顔を見た瞬間に安心はしたものの、恥ずかしがっている理由はこれだけの会話では分からなかった。

「春川、昼休みにな…。それから、授業中でも無理するなよ。具合悪かったら【俺の所】にちゃんと来い。…な?」

「はい、霧島先生。」

俺が春川に“無理するなよ”と笑顔を向けてそっと念を押すと、彼女は呟くようにそう言いながら【コクン】と頷いた。

「高梨、春川を頼むな?」

「了解です、先生。」



こうして、昼休みに春川と高梨に再び会う約束をして教室へ送り込んだ。

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