ふーっと吐いたため息は冬の夜空に少しだけ軌跡を残した。
それでも白い息はするりと夜空に溶けて消える。
当然の出来事。

「……当然、ですよね」

そう。
季節が巡るのも、時が進むのも。
昼が夜になるのも当然で。
……隣で穏やかな寝息が聴こえるのも当然だと思っていた。

天神学園高等部三年、シュア・ベネルース。
彼は今日、天神学園高等部を卒業した。
そして卒業式が終わった後に幼なじみの天神学園高等部二年、レーヴ・ミッシングトンと共に屋上へやってきた。
いつもなら屋上にはそれなりに住人がいてそれぞれがそれぞれの邪魔をしないようにテリトリーを決めるのだが……

「気を使わせてしまったようですね」

屋上には二人だけ。
卒業式だからと二人だけにしてもらえたらしい。

肩にかかっている慣れた重み。
寝ているレーヴの頭を撫でていると身動ぎをしたあとに青空色の瞳が開かれた。

「おはよう」

「あれぇ……寝ちゃってた?」

その声に少しだけ悲しみが混じっているのは気付かないふりをして。

「うん。ぐっすり」

「そっかぁ……最後の日なのにな」

当然のようにかけてあるシュアのブレザーをレーヴは当然のようにありがとう、と言って返す。
レーヴが寝ているときにシュアが着ているものをかけるのを許す代わりに、レーヴが起きたらシュアはかけたものを素直に受けとる。
そんな約束が出来たのはいつのことだろうか。
当然に思っていることは、もう当然にならない。