俺には、1つ年上の姉と3つ年上の兄がいる。

姉は太陽みたいな女で、兄は月みたいな人だった。
姉はいつも外で俺と遊んでいてくれた。泥だらけになってもかまわずに走りまわっていた。
兄は姉と対照的で物静かでいつも家で本を読んでいたし暴れまわる俺達をどこか呆れた目で見ていた。

別に、これだけなら普通の兄弟だと思う。
上の二人の性格が正反対だが何処か似ている。
似ていないのは俺だけだった。
兄も姉も一重でストレートで茶髪。それなのに俺だけ二重で癖毛で黒髪。
姉と似ている兄が羨ましくはなったが別にそこまでのものじゃなかった。

だけどある日俺は見てしまった。
確か俺が小学校5年の時だったと思う。暑い夏の日。セミがうるさくてめまいがしそうな日差しの射す昼間。
サッカーの練習から帰ってきた昼間の事だ。6年の姉と中2の兄がキスをしていたのを見たのは。
すぐに俺に気づいて離れた二人の顔は赤くて、見間違いじゃないってことがわかって苦しかった。
なんでこんな気持ちになるのかは分からなかった。
ただ、あれが兄妹の間で交わすキスじゃないことは薄々感じていた。
気づいていないふりをしたかったのかもしれない。兄が姉を好きだったこと。姉が兄に気があったこと。
そうだ。いつだって兄が本から視線を上げて先には姉がいた。
姉が笑う視線の先には兄がいた。

あの時胸に広がった重くて苦いものの正体。今なら分かる気がする。
俺は姉に恋をしていたんだ。
はっきりわかったのは姉が中学に入ってからだった。
姉の見慣れない制服。兄と同じ学校の制服。全部が羨ましかった。

一年遅れて中学校に入ったけれど胸のつっかえは無くなるどころか増えて行った。
どうやら兄妹の間での恋愛はあのキスで最後だったようで、姉も中2になり彼氏と言うものができた。
自分の気持ちを殺すように「おめでとう」言った声を今でも覚えている。
自分のものとは思えないぐらい冷たい声だった。姉の傷ついたような顔も思い出せる。今にも泣き出しそうな目で俺を見つめてくる。
相変わらず無表情な兄も眼鏡越しで俺から目をそらすことなく見てきた。勘のいい兄だから俺の気持ちに気づいていたかもしれない。
「早く風呂に入れ」の兄の一言で俺は姉の視線から解放された。俺の肩に置かれた兄の手でアレが夢じゃないことが痛いぐらいに思い知った。


あれから。
俺は高校生になった。
姉と違う、遠い学校に入った。
学校で知り合いと言えば同じ中学校だった恋と水帆ぐらい。
それでもよかった。
友達と別れ、ほとんど誰も知らない学校に行くことになっても。姉と逢う事がなければ。
恋人と笑っている姉を見ることさえなければ何処でもよかった。