先輩は親切に、私と真衣子が階段を上がるのを待っていてくれる。

長めの前髪からのぞく瞳が、にこりと微笑んだ。



「そうだよ。この上の、第二講義室」

「私たち、隣です。じゃあ毎週、この時間はお会いできますね」



なんとなく嬉しくなったので、そのとおりに言うと、先輩はなんだか、少し戸惑ったように苦笑して。

そうだね、とうなずいた。


あっと思った。

この感じだ、あの日のバス停での、先輩の印象。

少し人見知りで、はにかみ屋で。



「私、佐瀬みずほっていいます」



ますます嬉しくなったところで、先日名乗り忘れたことを思い出したので、改めて伝えてみると。

並んで階段をのぼっていた先輩は、きょとんとして、それから愉快そうに笑った。



「よろしくね」



そう言いながら軽く手を振って、隣の講義室に消える。

達成感に満ちた気分でそれを見送った私は、真衣子の視線に気がついた。



「誰、今の」

「B先輩。この間の新歓の時、一瞬いたよ」



へえ、とつぶやいた真衣子は、再び私をじろじろと見る。



「何?」

「いや、あんたって面白いなと思って」

「どんなところが?」

「…自分で思ってるほど、お嬢様らしくなくもないあたりかな」

「…それって結局、らしいの、らしくないの?」



言い回しを一度で理解できず、尋ねると、階段型の講義室の真ん中あたりに席をとった真衣子が、ははっと笑った。



「とりあえず、仲良くなれそうってことだよ」

「本当? 嬉しい、頑張る」