子爵がロンドンに戻った後は、単調な日々が続いた。

 看護婦が食事を運び、薬を飲ませ、彼女は回復してきていた。

 あまり動いていないため、体力はまだ元に戻らないが、昼間は起きて読書などもできるようになっていた。


 だが、ローズの気持ちは沈んでいた。

 彼に会いたい、あの低いソフトな声が聞きたい、と切望している自分にあきれていた。エヴァンのことは、きれいにあきらめたはずだと、どんなに自分に言い聞かせても無駄だった。

 彼の表情、しぐさ、声音、そしてキス……。

 それらが心にくすぶっていた恋の熾火を容赦なくかき乱し、再び火をつけていった。どんなに追い払おうとしても、彼の面影は始終つきまとって離れなかった。

 だが彼はこう言っていた。

『花嫁となる人の準備が整うまでのね。ぼくはその人をロンドンへ連れていくつもりだから……』

 この言葉が、抜けない棘のように心に突き刺さっていた。抜こうともがけばもがくほど、ますます深く食いこみ血が流れ出す。

 そう。彼には既に心に決めた花嫁がいる。今度戻ってくるのは、メアリーを迎えに来るためなのだ。

 こんなひどい話があるだろうか。なぜ彼は今さら、こんな残酷なゲームを仕掛けてきたのだろう。