「あっ」

女子生徒の怨霊事件から、丸一日が経った日。晴也の手から、一枚の紙人形が浮遊し、宙を舞った。

「できました、できましたよ先輩!」

吉郎はBLアンソロジーに顔を埋めていたが、晴也の報告を聞くやいなや、ばっと顔を上げた。

「お、上達はやいやん。

晴也、頑張れば陰陽道の秘術も習得できるんちゃう?」

「いや、僕は公務員志望なので」

公務員、といってもいろいろある。

警察もあれば、消防士だとか教師だとか、などと種類がある。

……教師、と聞いてふと、晴也はとあることを思い出した。

「そういえば、先輩」

「どした?」

「神崎先生、今日は机にコーヒーがぶちまけてあったんですって。

あの、もしかすると、あれって」

「あ、こいつの仕業」

吉郎が指差した先には、なんと、この高校の制服をきた、鈴木によく似た女子生徒がいるではないか。

《あは。こんにちは……》

女子生徒は慣れていないのか、ぎこちなく笑った。

「あの調伏の時、俺が呪符にいったん魂を封じ込めてな、こいつに器をあげたんや」

「静まってくれたんですか?その子」

「まあ、いろいろ呪具も使ったけどな」

元気なそぶりを見せているが、吉郎の目の下には、これは見事なクマができている。

「週一で、あの教師に悪さしていいのを条件に、おとなしくなってもろたんや。これで解決やろ」

「……はいっ」

陰陽師と聞くと、誰もがかっこよく怨霊に立ち向かう姿が理想と思うだろう。

しかし、怨霊の因果と成り立ちと、情に向き合う陰陽師は、人と人外のものを繫ぐ者として、理想的だ。

「先輩!大変ですっ」

誰かと思えば、花子がよだれを垂らして酷く興奮しながら、部室の扉を開けた。

「うちのクラスの子が最近とった写真なんですけど」

花子が出してきたのは、なんと、心霊写真だ。

ちゃっかり、女子生徒も陰陽部に混じって覗き込んでいる。

「なんとなんと、クラスのイケメン君に寄り添う、男性の姿が写ってるんです!

これは、もしや、もしや、

ぐへへへへ……」


「そやなあ。

幽霊君と秘密の恋、なんて。

きゃーっ、萌えるわーっ」

「あの、深刻な話なのに、そこまで盛り上がりますかね 」

晴也のつっこみになどもちろん気にしない。

よっし、レッツゴー‼とばかりに、吉郎が先頭に立って例のイケメンがいるクラスへと向かう。

陰陽部はまた夕暮れの、この時間に、活動を始めるのだった。