「三島先輩」
落ち着いた声は、14歳にしては大人びている。
「なに?」
素っ気なく返事をしたのは、17歳の私のプライドが邪魔をしたから。
こんな年下のコドモに、心が動かされるなんてあってはならない。
「先輩って。僕のこと、好きですよね」
図書館の、真ん中。
目を見開く私と余裕顔の彼。
「……はい?」
ようやっと出てきた声は掠れていて私の声では無い気さえした。
すると彼はくすりと笑って、やだなあと目元を緩めた。
「冗談ですよ、馬鹿だなあ。そんな顔されると本気にしちゃうんで止めて下さい」
「な……!」
「ほら、静かに。ここ図書館ですよ」
そう言って口元にあてられた人差し指が、妙に色っぽい。
ムカつく。
年下に、弟の友達に、馬鹿って言われるとかなんだこのシチュエーション。
「嫌な冗談ね。好きなわけ、無いでしょ。あんたみたいな年下中学生」
ふん、とそっぽを向いて吐き捨てた。
すると彼はぴたりと身体の動きを止める。不思議に思って見つめると、彼は真面目な顔をしていた。
「僕は、好きですけどね。先輩のこと」
「………」
「………」
「………うそ」
「ええ、嘘です。今日はエイプリルフールなので」
さっきまでの真面目ヅラは何処へやら。奴は嘲笑うように私を見つめた。
「………あんたなんか大嫌いよ」
「……知ってますけど」
「んーん。あんたは全然分かってない」
そうして私は蔑むように彼を見つめた。
「私が今日、大嫌いってあんたに言う意味、分かる?」
「………は?」
「今日はエイプリルフールよ」
してやったり、と私は笑んだ。
みるみる目を見開いてく彼に、べえっと舌を出してやる。
「気付かないから、コドモだって言うのよ、ばーか」
そう言って踵を帰した私の後を、慌てて追い掛けてくる足音を聞きながら、私は満足げな笑みを浮かべた。