「そう。桂木涼太っていいます。
庶務とはフロア違うし、普段は現場常駐でたまにしか会社にはいかないけど、俺は吉川さんのこと、知ってたよ。
可愛い人が入って来たな、と思って」



可愛い人が、という言葉に、美梨は
涼太が遊び慣れていると感じた。


「うわあ、ありがとうございますー」


美梨は手を叩いて喜ぶ振りをした。



実は社内で何度か涼太の姿を
見掛けたことがあり、いい男だなと
ちょっと気になっていた。


女子社員たちのうわさで、涼太は29歳で独身だと聞いた。



会社から駅までは5分程で着き、美梨が車から降りる間際、涼太は言った。



「来週、設計課の暑気払いがあるんだ。吉川さん、おいでよ。」



いろんな誘いはあったけれど、美梨は初めて行く気になった。





設計課の暑気払いは、居酒屋で行われた。


今年は冷夏でビアガーデンは不振に喘いでいるというけれど、仕事が終わった
あとのビールは、やはり美味しかった。


設計課は男ばかりで女はゲストの美梨だけだった。


十人程が長いテーブルに向かい合わせで座る。