ケータイ小説 野いちご

コスモス

プラットホーム
神殿


順一は、雨に濡れたアスファルトの地面へ沈み込んだ。深く海を泳ぎきり、上へと向かう。
青さに感動しながら、光へ向かった。

彼は水面に顔を出し、大理石の床に肘をつくと辺りを見渡した。

「ここは?」

と濡れた頭を拭いながら、順一は呟いた。

「幸一くん。誰か来たよ。」

中年のスーツを着た男が、順一に歩み寄った。

「初めまして、高城遥です。」

高城が、屈んで順一に笑いかけた。

「初めまして、黒澤順一です。」

順一もまた、にこやかに返し、社会人の正しい挨拶をした。

「あなたは、ここに住んでいるんですか。」

絶対に違うと思いながら、黒澤は訪ねた。

「飛んでもない!!あそこにいる高校生よりも、後から来ました。」

手を横に振りながら、高城が言った。わかってる。黒澤は風呂の形にくりぬかれた床の水溜めから、這い出た。

「また、誰かくるんですかね。」

黒澤は髪をしぼりながら、訪ねた。そして、順一は横井幸一のもとへ歩いて行った。

「初めまして、黒澤順一だ。正しい道を一途に進んでくれと、親父が着けてくれた。君には、名前は、あるかい。」

順一が横井に言った。

「横井幸一、多分世界一の幸せなやつになれってことかな。」

幸一が、順一に言った。横井は携帯電話の画面をしきりに眺めて、夢中だった。今の高校生は、退屈な時間が多いのだろうか。暇潰しに慣れている。

「何を聞いてるんだい?」

順一が横井のイヤフォンをさして尋ねる。

「ニルヴァーナ」

と答えた。今は亡きカート・コバーンがいたパンクバンドだ。

「ニルヴァーナって涅槃って意味だぞ。悟りきったブッタの事だ。随分熱心な仏教信者だな。」

仁王立ちで、黒澤が得意げにいうと横井は楽しそうに笑った。

「本当に、マジでスゲー。」

友人のように横井は言った。

「まるで先生みたいですね。」

高城が言った。

「実は、高校生を教えていたことがあるんです。経験でわかったことは、どの子供も自分の意識で生活していることです。自分自身の考えを持っていて、決して否定的なものがないとわかりました。経験は、しなくても彼らの意識を持っているから、パンクロックであろうと、なんであろうと、きちんとした理由があって反抗していて、彼らが幸せということと、何を知りたがっているのかを、察知する目が、やしなわれました。」

黒澤はもっと違う事を延べたかった。システムに従わざる者は、いないように洗脳。意見がないこと、権力を持って欲しくないものには、無視された権利。当然あるはずと教えられた道徳がない社会より、無知な純粋に自らの存在を認めて見つめるエネルギッシュな感性を崇拝していた。黒澤は、大人が子供説教する意味は、ただ、子供の存在を無視しているようにしか思えなかった。

「子供が将来困らないように、なんて言って教師の仕事を円満にこなしたいだけですよ。影で問題点は大きく育って、迷う生徒はどれだけいるのか、図りしれません。こんなに自殺で死ぬ社会ですよ。日本は。異常です。いい社会なら、だまってたって楽しく暮らします。それなのに、暮らせないほどなんですよ。この日本は。許せますか。自分の教え子が、そこへ行くなんて。」

黒澤は教師をしていたが、別の仕事もしていたから、きっとそんな見方ができたのだ。

「今、日本の未来とか言ってる場合じゃなくね。ヤバくね。ケータイ充電切れそう。」

横井は顔をしかめた。お前の携帯電話の電池の残量なんかの方がよっぽど言ってる場合じゃない。と頭で思って黒澤はそこにとどめた。悪気がある訳じゃない。悪気がある訳じゃない。と、横井を悲しげに見つめた。

「あぁ。確かに。」

黒澤は返した。教育現場における政府との折り合いのように、無力感でいっぱいになった。


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