っくしゅん。


居酒屋を出てしばらく歩いた後。
自分のくしゃみで我に返った。


あたしってば、バッグもコートも持ってないじゃない。
もちろん財布も定期もない。
しかも駅と反対側に歩いて来たらしく、ここがどこだかも分からないし。


そうだ、沙織に電話して…。
ポケットを探り、呆然とする。


しまった。
部長を追って廊下に出ただけだから、スマホさえ置いてきてしまっていた。


どうしよう。
店に戻るしかないけど、あんな風に拒否られた後で部長と顔を合わせたくない。


どうすべきか分からず立ち尽くしていると、二人組の男が声を掛けてきた。


「どうしたの?」


軽いその口調に嫌な予感がする。
残念ながらあたしは、ナンパ男たちが声をかけたくなる顔なのだ。