あのあと、二人はどこへ行ったんだろう。


さらなる寝不足のせいで働かない頭を悩ませながら、あたしは会社のエントランスをくぐる。


残業とか、会議とか、はたまた飲み会の帰りとか。
本当は気にかけるのもバカらしいくらい、色気のない理由かもしれない。


同じ部署のそれも上司と部下とそれぞれできてるなんて、二股をかける相手としてはリスクが高過ぎるし。
何より、あの小泉部長が女性に甘い言葉を囁くようには到底見えない。


ていうか。
問題は、どうしてあたしがこんなにあいつのことを気にかけてるのかってことよ。


これじゃまるで、沙織の言う通り、あたしが部長に惚れているみたいじゃない。


オフィスのエレベーターホールで自問自答していると、誰かがあたしの横からすっと手を伸ばして上向き矢印のボタンを押した。


うわぁ。
ボタンを押し忘れてたなんて、めちゃくちゃマヌケ。
ていうか、この黒いスーツって…。
あたしが勢い良く振り向くと、営業の後藤さんがびっくりしてこっちを見ていた。


「ごめん、そんなに驚かせた?」


なんだ後藤さんか、って。
何であたしってば、部長じゃなかったことにがっかりしてるのよ。