どうしてだろう。
部長に触れられたおでこがじわじわ熱くなっていく。
胸のざわめきが収まらない。


小さくなる黒いスーツを見つめながらあたしは手を握り締めて、そしてすぐにびっくりして開き直した。


「そうだ…」


手の中にはまだ部長のハンカチがあった。
スーツと同じ、少し光沢のある黒いハンカチ。
あたしなんかがやるより、ずっときれいにアイロンがかけてある。


完璧主義の小泉部長。
言葉を交わしたのは、まだほんの数えるほど。


いつも偉そうで、失礼極まりないけど。
昨日も今日も、あたしが困ってるときは何だかんだ言って助けてくれる。


いつも無愛想で不機嫌なくせに。
ふとしたときに見せる表情は優しい。


どうしよう。
あたしとしたことが、完全にあいつのペースに飲まれてる。


昨日他の男に振られたばっかりだってのに。
何であたしは、あいつの後ろ姿から目が離せないの…?