それから数日。
この日もいつも通りに、民宿の仕事を手伝ったり、その合間に学校の課題を片づけたりと、そうして1日が終わると思っていた。
「菜月、迎えに来たわよ。こんなところ、いつまでもいるんじゃないの」
「お母さん……」
けれど、夕方近くになって、なんの連絡もなしにお母さんが民宿を訪ねてきた。
のどかな田舎町には不釣り合いな、白いレースの日笠にワンピース、帽子、小さなバッグ。
泊まる気は始めからないのはバッグの大きさで分かったけれど、分からないのが、どうして渋々ながらもおばあちゃんのところへ送り出してくれたお母さんがわざわざ迎えに来たのか。
それも、あからさまに不機嫌な顔をして。
お母さんとおばあちゃんの仲があまりいい関係ではない、ということは、小さい頃からなんとなく分かってはいた。
けれど、少なくとも今までは、こんなふうに強制的な行動に出たことはなかったし、あたしの意思を尊重してくれていたのだ。
「今からここを出れば最終の新幹線に間に合うわ。荷物はどこ? さっさとまとめなさい」
「……」
あまりに突然のことで驚きを隠せず、固まっていると、お母さんが容赦なく言い放つ。