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「おばあちゃん、菜月だよー。ただいまー」


夏休み初日。

民宿の玄関を開けて1歩中に入ると、外と変わらない暑さがあたしを出迎えた。

おばあちゃんが1人で切り盛りをしている民宿『汐凪』は、今年も扇風機とうちわで暑さをしのぐ仕様に変わりはないらしい。

その変わらない民宿の様子に、懐かしさを感じながら頬を緩ませていると。


「おや、菜月かい? よく来たね。来て早々で悪いんだけど、また出てもらえると助かるわ。魚勝さんにカツオのタタキを頼んであるんだけど、今、夕飯の仕込みで手が放せないんだ」

「うん」


どうやら仕込みの最中だったらしいおばあちゃんに、さっそく一仕事頼まれてしまった。

とりあえず、大きな荷物をカウンターの奥にしまって、必要なものだけを持って外に出る。

おばあちゃんとはまだ顔を合わせていないけれど、台所から聞こえた声は元気そうだし、夕飯の忙しい時間帯が過ぎれば、お茶でも飲みながらゆっくり話ができるはずだ。


「じゃあ、行ってくるねー」

「悪いね菜月、頼んだよ」

「はーい」


そうしてあたしは、来るときは上ってきた長い坂道を、今度は下っていった。