「ア~ユ芽ちゃん?」


「ふぁい。」


早朝の教室。


わたしの背中にへばりついていたアユ芽ちゃんは眠たそうに返事を返した。



「こないだ本屋で会った可愛い男の子覚えてる?」


猫なで声で問いかけると、


「はい!」


と非常に元気のよろしい返事が帰ってきた。


眠気飛んで良かったね。


「今度の土曜にあの子と会う約束したの。アユ芽ちゃんも来るでしょ?」


いちよう尋ねる。まぁ、来るのはすでに決定事項だけど。


「行く‼行く‼もち肌ボーイ‼」


頬が紅潮してアユ芽ちゃんはいつも以上に綺麗だ。


変態モードに入ると、獲物をとらえるための変態フェロモンが体内から分泌されるのだろう。


わたしにはすでに抗体がついているから効かないけど。


「あっ、でも…」


アユ芽ちゃんの顔が怪訝そうにゆがんだ。

「ミミ子、こないだわたしがあの子に触れるの全力で阻止してなかったっけ。」



ぎくっ



わたしはいたたまれなくなって身を縮ませた。


ごめんなさい。アユ芽ちゃんはちびっ子少年という名のエビを釣るためのエサ、


ひいては美少年という名のタイを釣るための犠牲なのです。


「まぁ、いいけど。」


恐る恐る顔をあげると、変態モードに戻ったアユ芽ちゃんのにへら顔があった。


……反省して損した。