「姉ちゃん、そういう趣味だっけ?」


ずっと働きどおしていた楓は、久しぶりに何の予定もない日を過ごしていた。
それは自分の意思でもあったから辛いと思うことはなかったが、さすがに店からストップが掛かった。

そして、その休みがたまたま日曜日だったことから、楓はやっと弟・圭輔と再会した。


「ん。これはある人が好意で譲ってくれたのよ…なにも持たずに出ちゃったから…」


楓は部屋に入ってしばらく経つのに、未だに立ったままうろうろとしている圭輔にお茶を出しながら言った。


「へぇ。いいとこ見つけたんだ。こんなとこに住み込みで雇ってくれて、服までくれる同僚がいるなんて」


圭輔はベッドに腰をおろして楓からお茶を受け取ると、安心したように笑って言った。

楓は淡いスミレ色のワンピースを揺らしてカウンターチェアに座わる。
そして圭輔への説明で殆どを偽っていることに胸を痛めながら微笑を浮かべる。


「そっかー…ま、とりあえず大丈夫そうでよかった」
「うん。だから心配しないで。それより…」
「あー…アイツ? 相変わらず」


楓が聞きたいことを汲み取って、圭輔が冷ややかな目で答えた。


「本当はオレだって今すぐあそこから出てぇよ。でも、今はアイツを“利用する”って思って我慢する」
「…私もなるべく早く、圭輔を呼べるようにするから」
「無理しなくて大丈夫だよ。逆にオレが姉ちゃん一人くらい面倒みれるようになるって」


ははっと頭を後ろに逸らして敢えて明るく笑い声を上げる。
圭輔はその頭を元に戻すと、お茶の入ったグラスを力いっぱい握り締めて奥歯を鳴らす。


「……法律なんかなければ、とっくにあんな奴どうにかしてる」