まるで、天使が舞い降りたかと思った。


風でふんわりと浮くウェーブのかかった淡い色合いの金髪。


こちらを見つめるブルーの瞳。


白いワンピースから飛び出た真っ白な手足。


その天使はどこからともなく現れ、降ってきた。


そう、降ってきた。


驚いたが、両腕を広げ彼女を受け入れれば、僕の首に手を回して、そのまますとんと地面に足を下ろした。


この間、僅か数秒だったはずなのにすべてが、止まっていると言っては過言ではないほど、スローモーションに見えた。


舞い降りた彼女の動き自体は、まるで、重力など感じさせないものだった。


それこそ羽が生えててもおかしくないような。


でも、首に手を回されて、彼女の体重を感じ、広げた手を背中というか腰に回して受け止めた時、ああ人間だと、確信した。


そして、視線を上げた彼女の青い瞳と視線がかち合う。


晴天の空のようなその瞳に吸い込まれそうになる。


花が咲くように笑みを浮かべた彼女は、その勢いのまま、ちょっと背伸びをすると、僕に口づけをしたのだった。


何時間にも思えたそれは、ほんと僅か一瞬の話だったが、僕の頭の中をぐちゃぐちゃにするには十分過ぎるほどのもの。


「戻ってきちゃった。」


正常とは言えない頭だったが、その声を聞いた瞬間理解した。


降ってきたのは天使なんかじゃない。



紛れもない悪魔だ。