雅苑の裏手に入ると、蒼甫先輩が家の前に車を停めるために右に回る。すると門の前に一台のタクシーが停まっていた。

「なんだよ、あのタクシー。うちに用事か?」

荷物を運び入れるのは後にして、一旦車を駐車場に停める。スーツなど買ったものだけを持って門をくぐると、千夜さんの後ろ姿が見えた。

「千夜さん、誰か来てるの?」

蒼甫先輩が呼ぶ声に、千夜さんが振り返る。

「蒼甫さん。あら椛さんも、お帰りなさい。おふたり、ご一緒だったんですねぇ」

千夜さんはそう言ってにっこり微笑むと、千夜さんは私と蒼甫先輩を交互に見た。

「いいですねぇ、若い人は。うふふ」

私と蒼甫先輩がデートでもしてきたと思っているのか、意味ありげに含み笑いをする。

千夜さん、その顔。何か勘違いしてるよね?

蒼甫先輩を見上げるが、肯定も否定もせず千夜さんに合わせて一緒に微笑んでいるから、何を考えているのやら。