抜き足差し足忍び足──

と言っても泥棒ではない。音が出ないようそっと足を忍ばせながら、廊下を進んでいる。

結局私が出した結論は、このまま一度バレないように部屋に戻る。そこで一旦考えをまとめ、そのあと副社長のもとへと向かう、というもの。

二十九歳にもなって、こんな安易なことしか思いつかないとは……。

溜息を圧し殺し、一歩ずつ歩みを進める。

でも如何せんリフォームがしてあっても元は古い建物に違いなくて、ちょっと気を許した途端床がギギギッと軋んでしまった。

「椛か? さっさと、こっちに来い」

「ひぃっ」

顔は見えないが明らかに怒っている声に、緊張が体中を駆け巡る。

恐る恐るダイニングに足を踏み入れると顎でそこに座れと指示されて、小さく頷きながら副社長の前に座った。