「はい、これを使ってくださいね」

この後のことを想像して溜息をつき、千夜さんからエプロンを受け取る。

水玉模様の可愛らしいデザインのエプロンを見てほんの少しテンションが上がったけれど、憂鬱なのには変わらない。

「蒼甫さんの料理の腕前はプロ並みですよ。いい花嫁修業になりますね」

「は、花嫁修業なんて! 千夜さん、何言っちゃってるんですか!?」

私の耳元で呟いた千夜さんの言葉に、過剰反応してしまう。

慌てて蒼甫先輩を見たが、こっちのことには気づいていないのか、普段と変わらない顔をして冷蔵庫から食材を出している。

よかった……。

「お疲れ様でした」と今日の仕事を終えて帰っていく千夜さんを見送り、キッチンに戻る。エプロンをつけ手を念入りに洗うと、蒼甫先輩の横に立った。

「米を炊いたことは?」

「ありません」

「……聞いた俺が悪かった」

何なんですか、その間は。

そうツッコミを入れようとしたけれど、どうせ『うるさい、黙れ』と文句言われるだけだとやめる。