「ちょっと!ゆーいち!ねぇ!優一!ちょっと!」

「…んだよ、うるせぇな」



驚くことなかれ。
俺の家では、



「なんか変な虫居るの!ねぇ!取って!」

「は?しらねぇよ」


本当の志望校の受験日の朝5時に姉が、虫を捕れと言って受験生の弟を起こしても何もとがめられないのだ。



「つか、ふざけんなよ、まだ5時前じゃねぇかよ」

「よかったじゃない!逆にすっきり目覚められて」


…反省する気もないのか。


睨んでみても呑気にあくびなんてする姉に思いっきりため息をつけば
奴は鼻で笑ってさっさとリビングに向かうのだった。

…ほんと、なんだよ、あいつ。

苦笑いと共に部屋に戻ろうとすれば
大きな声がそれを遮る。


「朝食作ってあげるから!
もう出てきなさいって」


なんだ、それ。


笑ってしまえば
オラ、なんて何とも逞しい言葉と共にジュースを投げつけてきたのだった。


「今日、バレンタインだしね」


…あ。






カレンダーを見て、気付く。




本当だ、バレンタイン、じゃん。