女の恋は、上書き保存で。

男の恋は、新規保存。



会社の昼休憩のことだった。

昼時になると路上でワゴン販売されるお弁当を、自席で黙々と食べ進めていると。

後ろの席に座る同僚の女の子が話していたものが、聞こえてしまったのだ。


元彼に復縁をしつこく迫られて困っている、と別の子に相談を求めていた。

男の恋は新規保存だから、たまに元カノフォルダを開けてみて、過去の恋にふけっているだけだから。

そんなアドバイスにもならない受け答えをしていた。


女の恋は上書き保存だから、とっくに忘れてるってのにね。

彼女たちが笑い飛ばしていたあの会話が、むげにあしらうからかい声とともになぜだかよみがえった。



同窓会開催の案内が届く、ずっと前の話。

そんな話を偶然にも小耳に挟んでしまった時、なるほど、たとえ方がうまく、言いえて妙だなと感心しきりだったのに。




女の恋だって、本当に大切にしたいものだけは、片隅によけて上書き保存したりしないようロックするんだと思う。

私の場合、それが宏之だった。



中には想い出という名の、いろんなものがたくさん詰まっている。

一緒に撮ったプリクラ。

プレゼントされたブレスレット、ピアス。

一緒に過ごした時間。

もらった言葉たち。

好きだという、一途な想い。




陽平以外にも、いくつかのその場を楽しむだけの短い恋愛をしてきたはずなのに。

それらは跡形もなくすべて陽平に塗り替えられている。

もし、宏之と名づけられたフォルダがほかの男性の名前に変更され、上書き保存されていたなら。

もう二度と思いだすことは、なかったかもしれない。

たとえ思いだしたとしても、過去にあんな男とつきあったな、と思う程度だっただろう。


女は男以上にリアリストで、前だけを向いて歩いていくものだから。

後ろは、めったに振り返らない。




なぜ上書きされなかったのか。

きっと、私自身にもその答えは、一生かかっても見つけられない。