宏之とは、新幹線の駅の改札口のところで別れた。
10年前に上京する日、見送りに行けなかったぶん、今度こそは、という思いからだった。
年末の近い駅には、これから帰省するのか、大きな荷物を持つ人も散見される。
「元気でな」
エスカレーターに載り、肩越しにひらひらと手を振る宏之に、私も大きく手を振り返す。
「宏之も、元気で」
喧騒に飲みこまれたくなくて、声をはりあげる。
宏之はずっとこちらを見返りつづける。
真冬なのに、ひまわりのような笑顔だ。
だけど、それもどんどん背中が小さくなって、ついには見えなくなる。
行ってしまった。
心さみしい。
その理由はたぶん。
うすうす実感しているから。
連絡先を交換しあったけど。
お互い、その番号を発信しあうことはないだろう、って。
キスの時、私が感じてしまった罪悪感は、宏之にも伝わっていたから。
私を気づかって宏之は、連絡をしてこない。
私もまた、陽平に遠慮して、宏之に連絡をしない。
さよなら。
さよなら。
そして。
好きになってくれて、ありがとう。
つきあってくれて、ありがとう。
たくさんの好きを私にくれて、ありがとう。
本当に、本当に。
大好きだった。
出会えてよかったと。
心からそう思える。
だからどうか。
いずれ、私以上に素敵な人と運命の出会いを果たして。
どうか、幸せになってください。
私が生涯初めてつきあった人。
そして。
最後に、恋心を抱いた人。
そよ風が軽やかに吹きぬけるくらいの、あまりにも淡く過ぎ去った恋情だけど。
確かにここに、好きという気持ちが存在していたから。