ある日、メンバーが部室で練習をしていると、ドアをノックする音が耳に入った。
来夢がドアを開けると、同じクラスの花坂 アリサがいた。
「軽音部に何か用かしら?」
来夢が聞くと、アリサは
「私を軽音部に入部させていただけませんか?」
と言った。莉夢は驚いた。アリサと言えば、人気者で、学年1モテると噂の生徒だ。
吹奏楽部に入っていて、軽音部とは無縁だと思っていたのだが…。
「それなら、大歓迎よ。入部届を出してきてね。」
「ありがとうございます!」
アリサは職員室に走って行った。
はきはきしていて、莉夢とは正反対な性格だ。
「今の子可愛くね?」
その声に振り向くと、達也が優魔と喋っている。優魔がどう返すのか、知りたい。
「まあ、顔は美人だよな。」
莉夢はその言葉に何故か傷ついた。一瞬顔をしかめたが、すぐに何事もなかったかのように練習に励む。
「莉夢も十分可愛いけどな。」
一瞬、優魔が何を言っているのか分からなかった。聞き間違えかと思った。でも、あきらかに莉夢の方を見ている。莉夢は聞こえなかったふりをした。
ドキドキが止まらない。
そんなとき、アリサが部室に入ってきて、
「入部届、出してきました!」
と言った。
全員が自己紹介をした後、莉夢のときと同じように、来夢はアリサにできる楽器を聞いた。
アリサは、リードギターがやりたいと言った。
ちょうど、リードギターはいなかったため、リードギターに決まった。
アリサが入部してから、軽音部はにぎやかになり、いつも中心にアリサがいた。
莉夢は部室の隅で1人で練習をしていた。
そんなとき、優魔はいつも莉夢に優しく話しかけてくれた。
その一言一言が嬉しくて、寂しくなんてなかった。
ロックフェスが近づき、練習はヒートアップしていった。
どんなコスプレにするか、という会議(?)も開かれ、妖怪に決まった。
莉夢は猫娘。優魔は九尾。来夢は雪女。綾は女鬼。達也は男鬼。アリサは人魚に決まった。
そして、練習が進むにつれて、アリサの行動が莉夢の目にはよく映った。
打ち合わせのときはいつも優魔の隣に座り、休み時間にはいつも優魔に話しかけている。
ひょっとして、アリサは優魔君のこと、好きなのかな…
そんな思いが頭を過った。
だが、そんなこと、どうでもいいじゃない!と被りを振り、練習に励んだ。
カラオケに行くときも、アリサは用事を潰してまで、優魔についてきた。
ある日、一度全員で合わせてみようということになった。
合わせ終わった後、来夢はアリサを叱った。
「全然なってないわよ。アリサ、ちゃんと練習したの?ロックフェスは後一週間よ。気を抜か ないで頑張りなさい。」
アリサは助けを求めるように、優魔の方を見た。すると、
「アリサは十分頑張ってますよ。来夢先輩。そんなに叱らないでくださいよ。」
と優魔はアリサをかばった。
その瞬間莉夢は、今までの優魔の優しさが嘘に思えた。
(優魔は、誰にでも優しい。あの優しさは私だけのものじゃなかった)
そんな思いが、莉夢の頭を往復している。
それから一週間が過ぎ、ロックフェス当日になった。
あれからアリサは練習をしたらしく、少し上達していた。
来夢の説教が、響いたのだろう。