朝は晴れていた空は、どんよりと重たそうな雲に覆われていた。

「ダメだ、戻るぞ」

 俺と同じく新人漁師の健太が言う。

「一雨来るな」

 ベテラン漁師の岩崎さんが、鼻をひくつかせる。

 …失礼ながら、あなたは犬ですか?なんていえねぇ…。

「港まで戻るぞ」

 岩崎さんの指示で、船が向きを変える。

 だが、既に時遅く―――。

 山の天気は変わりやすいとかいうが、今日の海は、まさしくそれだった。

 一閃の光が空を駆け抜けたかと思うと、一粒の雫が、甲板にしみを作った。