第91話 『お迎えおばさん(後編)』 語り手 私

 ……心臓が飛び出しそうだ。
 私は自分の話を終えて、一目散に昇降口を目指して来た。息切れの呼吸音をどこか遠くに聞きながら、どこか想像していた眼前の光景に目が釘付けになる。
「ど、どうしたんだよ! 一体何があったん……」
 私の後ろから徹さんの声が聞こえ、それと同時に何人かの足音も聞こえたが、今の私には振り返ることもできなかった。
 
 ……目の前には複数の人……、いや、人でない何かが見て取れた。
 赤い洋服を着た虚ろな表情の老婆、腰が90度曲がった白髪のおばさん、そして、両腕のない中年女性がガラス戸の外に立ってるのだ。
「あ、ああ! これって、これって君がさっき話してた……」
 絞り出すような声で私に質問を投げかけてくる徹さん。しかし、私は魅入られたかのように視線を返すことも、徹さんに何か答えることもできなかった。
「……腕、腕をちょうだい……」
「み~つけた~~」
 恨めしそうな声が、なめるような視線が私に注がれる。
「あはは、あははは」
 私は思わず笑い出してしまった。だって、本当におかしかったから。私が出任せで作り出した幽霊の話が現実になったから……。
 そう、『お迎えおばさん』の話は本当。でも、それ以外の幽霊の話は全部が作り話。私が勝手に考えていた幽霊たちなんだ。怪談に興味を持った中学時代から、今までに私が自分で考え出した……存在しないはずの幽霊たち。調子に乗って私がみんなに話したものが実際のものとなっている。ありえるはずがない。これは夢、きっと夢なんだ。
 ……私はふと、横の壁際に視線を向けた。
 すると、そこにボロボロの服を着たおばさんが立っていた。その手には誰かの上履きが握られていた。
 ああ、この人は『靴隠し』だ。もちろん私が考えた幽霊。設定では靴を隠すだけの幽霊だけど、その現場を見たら食い殺されてしまうんだった。
「み~た~なああああ!」
 案の定、『靴隠し』は私と視線が合った瞬間に、私の方へと鬼のような形相で向かってくる。