【5】
翌日の朝早く、ユイはエイジがどこからか調達してきた車で移動をしていた。
目的地も何も決めずにただ何時間か走り、車を変えてまたひた走る。
そんなことを繰り返し、ようやく夜になった。
車を降りて、三人は徒歩で海岸通りを歩いていた。
一日、一緒にいても別段変わった話もなく、いつも通りのエイジとレンの小競り合い。
それを見てくすくす笑い。
「時間なんて、あっと言う間に過ぎるものなんだね… 」
満天の星と、穏やかな海を見ながらユイは呟いた。
「そうだな」
大して興味なさそうに頭の後ろで手を組みながら、レンは言った。
それでも、放っておかれているという感覚がないのは、 一緒にいた短い時間でお互いを“理解”したからだ、とユイは思う。
この二人は絶対に逃げたりはしない。
自分達の置かれた状況から、そしてユイの置かれた状況から。
それならば、ちゃんと二人に話をしなければいけない。
「――私…ね」
ユイは意を決したようにエイジとレンの方に向き直る。
「明日で、一旦お別れだな」
ユイの言葉を遮り、レンは言った。
出来れば、それを認めたくなかった。
――…本当は。
本当はもっと。
「ま、大体のことは調べたんだがな…ただひとつ、未だに分からないことがあるんだ」
エイジは言った。
ユイは二人に背中を向ける。
「…どうして私があなた達を知っていたのか、ってことよね?」
ユイが聞くと、エイジはポリポリと頭を掻いて。
「…ま、まァその…俺たちもよ、色々あって今に至るワケだしな…知りたいとか、知りたくねェとか、そういうんじゃねェんだけど…」
「心配しないで。私はあなた達を知っているし、かといって敵じゃない」
でも、何故あなた達のことを知っているのかは、今は言えない、とユイは付け足した。
事情があるのは分かるが、お互いの事はあまり深入りしない。
ここは、そう言う街なのだ。
「でもね、時期が来ればちゃんと話すわ。お互いにもう少し、ゴタゴタが片付いてから、ね」
「…まァ、なんつうか」
エイジは点けたタバコの煙を、夜空に向かって吐き出した。