「香苗先輩って彼氏いないんですか?」


香苗の後輩の一人は目をキラキラと輝かせながら香苗に尋ねた。


「え?」


日替わり定食330円(ご飯大盛り+50円)の唐揚げをまさに口に運ぼうとしてた香苗の手が止まった。


仕事の鬼と呼ばれる香苗ではあるが、いつも昼ご飯をくいっぱぐれているわけではない。


たまには同じ部署の後輩達と一緒に食事をとることだってある。


一つのテーブルに陣取ったのは香苗を合わせて4人。


香苗以外はみな、まだまだ初々しさの抜けない新人達だ。


どの化粧品が良いだの、あそこの店の店員がかっこいいだの、当たり障りのない話をすることも多いが、女同士が集まればおのずと話題は一つに集中する。


……恋愛話である。


のらりくらり躱していた矛先がついに香苗の首筋に向けられたようだ。


……マズイ。


3人は期待を込めた眼差しで待っている。


「私の話なんて……興味ないよね?」


これ以上は聞くなという言外の意味を込めて言ってみたが、3人の後輩たちには全く通じない。


「そんなことありません!」


「香苗先輩ってば秘密主義なんですもん!」


「気になりますよー!みんな聞きたがってたもんね!ね?」


同意を求められ、うん、うんと他の2人が頷く。