……やばい、どうしよう。


香苗は洗面台に両腕をついて苦悩してた。


大学生のころからあこがれていた広告会社に就職し、入社3年目にしてプロジェクトチームのサブリーダーに任命され順風満帆な社会人生活を送っていた香苗に訪れた最大のピンチである。


ここは某有名企業の23階にある女子トイレである。


上司との打ち合わせの最中に、ちょっとすいません、おほほほほ!なんてトイレに駆け込んだのも束の間。


……やばいよ、やばいよ!


明日に控える上役へのプレゼンなど、香苗にとっては問題ではない。


入社以来、出世街道をひたすら駆け上がってきたキャリアウーマンにこの手の事柄を聞くのも野暮というものだろう。


香苗を悩ませる原因はただひとつ。


ぐーきゅるーるー。


腹の音が無人の女子トイレに切なく響く。


……お腹、空いた。


それも絶望的にくらいに。


香苗は冷たい洗面台に倒れこんだ。