そして──ついに、ロニの配達の仕事は終わりを迎えることとなる。

 子爵令嬢は、無事伯爵家との縁談を成立させたのだ。子爵家では、娘の玉の輿に踊り出さんばかりの騒ぎだった。

 ロニもまた、主である令嬢に「あなたのおかげよ」と、最上のねぎらいの言葉を贈られた。

 いつもなら、これが彼女にとっては至福の瞬間である。

 けれど。

 晴れやかな子爵家の中で、ロニだけは心が浮かれ上がることはなかった。

 これで、伯爵家への手紙の配達は、終わりなのだ。

 ということは、あのファウスという執事頭と、ささやかな手紙のやりとりをするのも終わりということである。

 それが、ロニにとってこの上なく寂しかった。

 やはり、彼女は主と共に伯爵家へ連れて行く侍女の中に入ることはなく、令嬢に次の女友達を紹介されることになった。

 再びロニは、流浪の侍女になる時が来たのだ。

 侍女部屋で、少しずつ荷物をまとめていると、そんな彼女の気持ちと同調するかのように、窓の外の空もどんよりと曇っているのが見える。

 雨なんか、降らなければいいと、ロニは願った。

 雨が降り出してしまえば、彼女は伯爵家へ駆けて行きたくなってしまうではないか。

 ああ、でも。

 ロニは、片付けていた荷物の中に手を突っ込んだ。

 どうしても、このまま音信不通になってしまうのだけは、耐えられなかった。

 せめて、別れの手紙を。

 本当の本当に、最後の手紙を。

 これまで、親切にして下さってどうもありがとうございましたと。

 ロニは、据え付けられた机に向かって、荒れる字も気にかけられないまま、思いの丈を綴った。

 最後の一行。

 さようならと書きかけた時──くすんだ窓ガラスに雨粒が当たった。

 手紙の文字の上にも。

 一滴、雨が降った。

 雨が手紙に落ちないようにするため、ロニはかなり長い間、最後の一行を書き終えることはできなかった。