「ほら、とりあえず横になれよ」

「ん、……ゴメンね、リョウ」

「だからもう謝んなって言ったろ?
さっさと寝ろ!いいから」


こんな言葉を交わすこの場所は
ライブハウスから程よい距離の
ビジネスホテル。


あの後フロアから出ても
いっこうに具合の治らない
アキの事を心配して

あとの事はケンゴやカズマに任せ
俺ら二人だけ先に
ライブハウスから帰宅した。

ここは今夜泊まるつもりで
前々から予約してた
ツイン三部屋の中の一室だ。


シングルベッドが二つに
テレビと小さなソファが設置された
安い割に小綺麗な部屋で

俺は肩に抱えた二つの鞄と
部屋の鍵をその辺に放り投げ
手前側のベッドに
弱り切ったアキを横たわらせた。


薄明るい照明に照らされたその顔は
相変わらず真っ青で

肩を揺らしながら
深く呼吸を繰り返すアキの額に
そっと掌を触れさせる。


「熱はないみたいだな」

「ごめ……大丈夫だから
リョウはライブハウス戻っていい――」

「――そんな顔して
大丈夫なわけないだろ。
嘘ついてる暇あんならさっさと目つぶれ。
ほらっ」

「……ん、わかった」


珍しく素直に呟いて
生気の無くなった大きな瞳が
ゆっくりと閉じられたのを確認して

俺は立ち上がって洗面所に行き
小さなタオルを濡らしベッドに戻る。


そしてアキの額にそれを置き
部屋の電気をパチンと消した。


「あり……がと」

「ん」


ベッドサイドの
小さなライトのみを点した暗い部屋の中に
掠れたアキの声がポツンと響く。


こういう時
何をしたらいいかわからない自分が
どうしようもなくふがいなかった。