「……んだよ、それ」


息が上手く吸えなくて
途切れ途切れにやっとそれだけ発すると
カズマはまだギターに触れたまま
スタジオの低い天井を見上げた。


「実は俺〜他に夢があってさ〜」

「夢?」

「うん、そう」

「何?」


まるっきり初耳なコイツからのその単語に
ドクンって
血液が巨大な固まりになって
全身を駆け巡る。

そんな俺の張り詰めた心情を
カズマはまるで気にしてないようで
わざとらしい節回しで言った。


「だから〜サッカーだよサッカー。
ほらバンドやる前
俺相当なサッカー少年だったじゃん?
ここらで一発世界でも
目指してみようかと思って」

「は?サッカー?」


その言葉を理解するまで約数秒。


――なるほどサッカーか。

どおりで今日のコイツ
ドイツ代表のレプリカジャージ
着てるはずだ……ってオイ!


「はぁあ゛?何がサッカーだテメェ!
お前あの日以来
真剣にボール蹴ったのなんて
一秒だってねーじゃねーか。
そんな奴がいきなり
世界なんか目指せるか!

その格好もただのファッションだろーが
まぎらわしい」


あまりのバカらしさに
思わずノリツッコミしかけながら吠えると
アホ男は喉の奥で低く笑った。


「さすがはリョウ、よくわかってるな。

てのはもちろん冗談で
本当言うと〜最近狙ってる女子大生が
めちゃめちゃ金かかる女で
バンドとの両立は
かなり厳しいっていうかー」

「なッ!」


……女、だと?


再度語られたクソ理由に絶句し
ピクリと眉を上げると


「――ってのももちろん冗談で〜」

「…………」


脳内の線がプツンと一本切れた。

こんの野郎!
人が真面目に聞いてりゃ
調子にノリやがって!


「オラカズマ!
お前いい加減にしろ。
テメェの下らない会話に
付き合ってる暇なんかねーんだよ!」