仕事を終えた乃莉子は、疲れた足取りで、アパートまで辿り着いた。


玄関のドアノブに手をかけたのだが、何やら思い詰めた表情で、開けるのをためらった。


メルヘンでの一件が、ぐるぐると乃莉子の頭の中を掻き乱し、ぐっと唇を噛む。


―――。


宮田から、始めて真剣な指導を受けた乃莉子は、仕事に対して改めて、気を引き締めはしたのだが・・・。


その、呼ばれた事務室にキャスパトレイユの姿はなく、乃莉子を不安にさせていた。


目の前で忽然と消えた、キャスパトレイユを想うと、宮田の話は右から左に抜けてしまい、仕事どころではない。


キャスパトレイユはイザヨイと一緒に、消えてしまったのだから。


乃莉子は、あまりの突然の出来事に、しばらく呆然とその場に佇むしかなかった。


「広木さ~ん。聞いてるぅ?」


心ここに在らずの乃莉子に、声をかけた宮田は、キャスパトレイユが居なくなった事を全く気にしていないようだ。


むしろ、キャスパトレイユなど、初めから居ないかのような態度である。