桜の花がチラチラ舞っている。

花吹雪……
そんな言葉が1番しっくりくるほどだ。


あたたかな太陽の光。
その中にあたし達はいた。


満開を過ぎて、優しい風にもピンク色の花は青い空へとその欠片を飛ばしている。
まるで、最後のお別れにダンスをしているように……


木漏れ日の中、あたし達の影が揺れる。



一本の古ぼけた桜の木の下で……
あたしはあの子に気持ちを伝えた。




『あたしをお嫁さんにして!!』




子供ながらに真剣だった。
大好きだった。
あたしの手のひらには
大好きな苺のキャンディがひとつ。



その後……あの子は……なんて言ったんだっけ?




ユラユラ揺れている微かな記憶。
ぼんやりと見えてくる、男の子の顔。



春の風にやわらかな黒い髪がふわりと揺れた。
まあるいクリクリの瞳。
長い睫毛。
ピンク色の頬。

まるでお人形のような男の子の綺麗な唇が動いて、嬉しそうに言葉を零した。







『うん! いいよ。 未央ちゃんは俺の…………のお嫁さんだ』


『…………か』


『なに?』


『要くんのバカーーー!!!』


『……えぇ!?』






――――――………
――――……


目を覚ますと、すぐ近くに男の子の顔。
その顔は、あれから10年以上もたつのにまだ少年のような面影を残してる。
あの日を思い出させるやわらかな朝の陽射しに部屋の中は包まれていた。


白いシーツに気持ち良さそうに顔を埋めて寝息を立てる綺麗な顔。


でも、あたしの気持ちは穏やかではない。




……思い出したんだ。