重い足を引きずるように歩く。



……うんん。

歩かされてる。


あたしの背中をママに優しく促されながら、やっとの思いで機内に乗り込んでいた。


飛行機にはすでにたくさんの人がいて、これから向かうアメリカを思ってか、その表情はみんな明るかった。


自分の席に向かう途中、何度もすれ違う人の視線を感じた。



無理もないか……



でも、他の人がどう思おうとあたしには関係がなかったんだ。



ただ思うのは、アイツのことだけ。




泣きたいのに泣けない。

あたしはただ座席に身を預けてぼんやりと窓からの景色を眺めていた。
大きなガラス張りの展望デッキがなんとか確認できた。


……いるの…かな?






《本日もAMA空港をご利用いただきましてありがとうございます。この飛行機はボーイング777便、シカゴ行きでございます。機長は高橋、私は客室を担当いたします溝口でございます。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締め下さい。ご用の際はお気軽に乗務員に声をお掛け下さい。目的地シカゴまでの飛行時間は11時間30分を予定いたしております》



機内アナウンスが入ると、席を立っていた乗客達はそれぞれの席に戻っていく。


もう出発なんだ……

飛行機は、もう間もなく離陸するんだろう。


…………。




《皆様、この飛行機は間もなく離陸いたします。シートベルトをもう一度お確かめ下さい》



ゆっくりと機体は動き出す。
あたしの心は、それと同時に悲しみが怒りに変わった。

頭の奥が熱くて……ドクドクと音をたてた。





「……なんなの、アイツ! あたしの事好きなんて言っておいて…見送りにも来ないなんてどう言う事なの? もう、ほんとに最悪ッ!!」


「…・・・未央、声大きいわよ」


「要のバカーーーー!!」





飛行機が加速をする。
重力が体にかかり、腕を動かすのも難しいのに、あたしは思い切りそう叫んでいた。