「あの時代はね、お偉いさんに逆らうとすんなり殺されたり、村八分にされたりする、

今もそうだが、ダム建設とか、大きな建設工事に関係する一部の人間が大金もちになる」
おじさんは続けてしゃべり、笑った。

「戦争をすれば武器職人がもうけるのとおなじさぁ。

それでね。大きな工事には迷惑するものがいる、
例えばね、ダムの建設予定地に小さな村が一つあるとする、そうすればその村は立ち退きだ。
村人は当然反対するよな・・・。
今まで住んでいた家が他人の都合でなくなるって、そらないよ、ナンダヨ~って感じ?
それで、なんて反抗的な村だ邪魔だから消してしまえって、命令が下されてさ、お偉いさんに潰されちゃったのかなって想像。

で、私は帰るとこがなくなったショックで記憶を封印したって、ちょっとカッコよくね?」

恵比須顔のおじさんはおどけたが、それに上手く乗れなくて・・・私はまた質問した。
「村の人達、どうしてそんなに怖い人たちに逆らったんだろ?
引越し代とかもらえなかったの?」

「ははははは、引越し代かぁ、そりゃいいねぇ」
おじさんは笑ったけれど、悲しそうな顔をした。

「いや、その場にいなかった者には解らないけど、少しは出たのかもね・・・。
でもねぇ、長年住んでる場所は離れられない人っているんだよね・・・。
おじさんもこの年になって解ってきたんだがね。

記憶がないときは、執着するもの、思い出の物がないから、どこにでも行けるし、いける気がした」

情けない顔をするおじさん、なぜか私も情けない顔になってきた。

住み慣れたとこって言うのは・・・移動が大変と言うより、面倒と言うより、離れ難くなるんだよなぁ。
それこそミサイルでも落ちてくるから出ていきなさいと、言われない限り、しがみついちゃうよ・・・。


***


母親の入院費のために始めたこの仕事を思っていたより、気に入っていたようだ。
おじさんの話を聞いて気がついた。
それこそミサイルでも落ちてこない限り、私はこのままここで働き続けるだろう、
やめるなんてめんどくさいしオーナーいい人だし・・・・・・・。



人の行動には大義名分が必要だ。


おしまい