今日も奈央はアルページュのキッチンで汗を滲ませながら忙しなく仕事に追われていた。



「すみません! メインまだですか?!」



「もうちょっとで上がります!」



 オードブルが終わってもなかなかメインが上がらないことに奈央は内心やきもきしていた。




「急いで! それからそのあとのデザートに出す白桃はまだ包丁入れないで」



「え? なんでですか?」




「あれは変色が早いから、サインと同時に手早く出すようにお願い!」


「はい!」



 一条のいないキッチンで奈央は独り戦場のキッチンを駆け巡るように従業員を動かし、余計な手間をかけている者にはフォローて身を粉にしていた。



『今は余計な事を考えない』



 でもそれは、昨日の後味の悪いパーティのことなど思い出す暇も作らないようにするための口実だった。