今、奈央の前で自分がこんなことを口にしたら、この無邪気な笑顔はどうなってしまうのだろう、自分の横で笑ってくれさえすれば、後はどうでもいいとさえ思ったこともあった。


 一条はそんな奈央の言葉を聞きながら肩を抱く手に力をこめた。



「……一条さん?」



「あ、いや……ちょっと、ぼうっとしてただけだ」



 そう言って、一条は目をそらした。



 奈央はわかっていた。


 こういう時、たいてい何か言いたいことがあるのだ、と。



「何か私に言いたいことがあるんですね?」



「……」



 一条の横顔が一瞬小さくぴくりとし、ため息をついた。

 そしてしばらく逡巡したあと、重苦しく口を開いた。