「ああ、わかった、お前こそ気をつけていけよ、じゃあな」



 一条は奈央の声を名残惜しむようにしばらく携帯を握って、薄暗い部屋の中でひとりいつもと変わらぬ都心の夜景を眺めていた。



「……ん?」




 静寂の中に聞こえてきた足音、この足音が誰のものか知っている。


 一条は小さくため息をついて来客に身構えた。