“仕事”が終わって、帰宅したところだった。
 リビングの扉を開けて固まる私に、ソイツはにこにこと声をかけてくる。

「あ、師匠!おかえりなさい!」

「……帰る家を間違えたか?」

 ポツリと洩らし、部屋に視線を向ける。部屋中に飾り付けられた紙製のカボチャやコウモリ。
 テーブルの上には、色紙やハサミ、作りかけのオバケが転がっている。
 そのテーブルの向こう、椅子に腰掛けている弟子は、両腕を広げて部屋を指し、にこやかに言った。

「HappyHalloween!」

「……ハロウィン?」

「はい!今日はハロウィンですよ!知りませんか?」

「魑魅魍魎が一晩掛けて、家々を『食糧を寄越せ!さもなくば恐ろしい目に合わせてやる!』と脅して廻る祭か」

「……そんな祭は嫌です」

 大げさに肩を落としてため息を吐く。

「もっと穏やかなイベントですよ」

「穏やか?」

「はい。最近だと、家を飾り付けて、仮装した子ども達とママ友さんを呼んでパーティーーーと表して、飾り付けや衣装を見てセンスを評価したり金銭面を予想するお祭ですかね」

 どこが穏やかなのか?……訊いたところでとぼけるだけだろう。

「近所同士で見栄を張り合うクリスマスのイルミネーションのようなものか」

「そんな感じです」

「……」

 カタンッと椅子を引いて腰掛ける。ハサミと色紙を取って切り始める。

「師匠?」

「飾り付けだけで夜が明ける」

 だから手伝う。と、皆まで言う前に、弟子はにこにことオバケの続きに取り掛かった。
 私も手元の黒い色紙に視線を戻した。

「なにを作るんですか?」

「蜘蛛」

「……」

 見なくとも、顔をしかめて絶句しているのが分かる。
 虫が嫌いなのだ。蜘蛛の巣も作ろう。