10月に入ってからも、僕は毎日病院に通った。
クラスの友人たちからお見舞いを頼まれる事もあったし、そうじゃないこともあった。
僕は毎日花屋に通って、あの白い病室に色を落とす。
カレンは毎日それを楽しみにしてくれていて、僕はそんな彼女の笑顔に癒される。

 僕はいい。
彼女が笑ってくれれば嬉しい。
だけど、彼女はどうなんだろう。

僕は、カレンに何かしてあげているんだろうか。

「外はもう雪虫が飛んでいるのね」

今日は体調がいいのか、カレンはベッドに起き上がっていた。
窓の外を見つめながら、そんなことを言っている。
 雪虫はふわふわと窓の外を飛びながら、まるで本当の雪のようにも見えた。

「山の方はもう初雪が降ったってさ」

「へー。もう寒いんだろうなぁ」

「元気になったら、外を散歩しようよ」

何の保証もない―…それどころか、可能性が低い言葉を敢えて口にする。
そうでもしていないと、カレンは今にもどこかへ行ってしまいそうで。
僕は必死に、希望に満ちた言葉を口にする。

「私、函館の夜景見に行きたい」

「イルミネーション見に行くんじゃなかったの?」

「だって、函館も行きたいんだもん」

「しょうがないなぁ…」

カレンが笑うから、僕も笑う。
そうして僕ばかりが、カレンから元気を貰っている気がする。

「あ、そうそう…これ、今週の分のノート」

そう言って手渡したのは、僕が一週間取りためた授業のノートと、クラスのみんなが書いてくれているカレン専用の日誌のようなものだった。
日誌には、その日クラスであったことや、カレンの友達からのメッセージがびっしりと書かれていて、カレンはそれを楽しみにしていた。

「いつもありがとう」

「みんな、お見舞い来たがってたよ」

「うん、次の検査が終わったらね…まだ、長い時間はみんなとおしゃべりできないし…」

そう言って目を伏せるのは、今の姿を友人たちに見せたくないからかもしれない。
僕は笑顔をつくると、カレンの頭を撫でた。

「さて。じゃあ、散歩いこう」

散歩、といっても、カレンはまだ歩き回る許可はもらっていない。
談話室までの距離を車椅子で移動して、少し環境を変えてあげたい、と僕が医者にお願いした。
医者も気分転換は必要だからと許可してくれて、僕とカレンは毎日一時間ほど、談話室でおしゃべりをした。

 これがよかったのか、最近のカレンはとても調子がよさそうだった。

「ずっと寝てると、夜あんまり眠れないから、ケンが来てくれると嬉しいな」

「暇つぶしにもなるしね」

「そうだね」

他愛もない会話をしていると、カレンと同じ病棟に入院している患者の何人かが気さくに挨拶をしてきた。
もう殆ど顔見知りの僕も、挨拶を返す。

「カレンちゃん、最近顔色いいわねぇ」

「はい、とってもいいんです」

優しそうなおばあちゃんが、嬉しそうに声をかけてきた。
カレンも胸を張りながら頷いている。

「おだいじにね」

自分も入院しているのに、そうして声を掛けてくれる。
病棟の人たちは、カレンに優しかった。